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東京大空襲の「大本営発表」報道

 新聞のジャーナリズムをテーマに、今月から非常勤講師として始めた明治学院大学での講義は26日が3回目になります。初回と2回目は、ガイダンス的に新聞のあれこれを話してきました。導入部の総論のつもりでしたが、取り留めのない内容になってしまったかもしれません。3回目から本論に入って、新聞のジャーナリズムの検証を進めていくつもりです。
 授業の本論では、まず戦争・軍事報道を取り上げようと思います。日本では全国紙、地方紙を問わず戦前からの歴史を持つ新聞が多いのですが、敗戦後の再出発に当たり、それぞれに戦争を止められなかった苦い経験を踏まえ、新しい民主主義社会の中での新聞の役割を確認しました。わたしなりに考えているのは、新聞の役割とは、突き詰めていくと「戦争を止める」ことに行き着く、ということです。それが実現できているかどうかは別の問題なのですが、わたし自身にとっては今でも変わらない職業上の責任だと考えています。
 新聞がいちばんこだわらなければいけないのは「表現の自由」と「知る権利」です。では、戦争になったときに「表現の自由」と「知る権利」に何が起こるのか。それは戦争になった時に起こるのか。それとも、戦争になる前から起きているのか。ささやかな個人的な経験ですが、そんなことを考えざるを得ない、わたしにとっては痛切な出来事が3年前、労働組合の専従役員だったときにありました。1945年の東京大空襲を調べていて、当時の新聞の「大本営発表」報道を目にしたことです。
 今日ならほんの少しの労力で、一夜で10万人を超える人々が死んでいったこの出来事のことを知ることができます。しかし、当時の報道はそうではありませんでした。

(1945年3月11日付朝日新聞の記事)
B29約百三十機、昨暁
帝都市街を盲爆
約五十機に損害 十五機を撃墜す
「大本営発表」(昭和二十年三月十日十二時)本三月十日零時過より二時四十分の間B29約百三十機主力を以て帝都に来襲市街地を盲爆せり
右盲爆により都内各所に火災を生じたるも宮内省主馬寮は二時三十五分其の他は八時頃迄に鎮火せり
現在迄に判明せる戦果次の如し
 撃墜 十五機 損害を与へたるもの 約五十機


 以上の見出しと「大本営発表」の本文部に続いて、おそらく朝日新聞の記者が書いたであろう記事が続きます。



単機各所から低空侵入
 敵機の夜間来襲が激化しつつあったことは敵の企図する帝都の夜間大空襲の前兆として既に予期されていたことであったが、敵はついに主力をもって帝都を、一部をもって千葉、宮城、福島、岩手の各県に本格的夜間大空襲を敢行し来たった。
 まず房総東方海上に出現した敵先導機は本土に近接するや、少数機を極めて多角的に使用しつつわが電波探知を妨害して単機ごとに各所より最も低いのは千メートル、大体三千メートル乃至四千メートルをもって帝都に侵入し来たり帝都市街を盲爆する一方、各十機内外は千葉県をはじめ宮城、福島、岩手県下に焼夷弾攻撃を行った。
 帝都各所に火災発生したが、軍官民は不適な敵の盲爆に一体となって対処したため、帝都上空を焦がした火災も朝の八時ごろまでにはほとんど鎮火させた。また右各県では盛岡、平に若干の被害があったのみで他はほとんど被害はなかった。
 この敵の夜間大空襲を邀(よう)撃してわが空地制空部隊は帝都上空および周辺上空において壮烈な邀撃戦を敢行して大規模な初の夜間戦闘において撃墜十五機、損害五十機の赫々たる戦果を収めた。
 現下の防御態勢においてかくのごとき敵空襲は避けがたく敵は本土決戦に備えて全国土を要塞化しつつあるわが戦力の破壊を企図して来襲し来ったものと見られる、しかし、わが本土決戦への戦力蓄積はかかる敵の空襲によって阻止せられるものではなく、かえって敵のこの攻撃に対し邀撃の戦意はいよいよ激しく爆煙のうちから盛り上がるであろう。


 それまでも「大本営発表」のことは知っているつもりでした。最初は、自分自身が新聞記者として書いてきた記事とあまりにも異なっている異常な記事だと感じました。しかし、いつしか同じようなことしか書けなくなる日が来るかもしれないことに気付きました。「大本営発表」報道は遠い昔の出来事ではない。そんな当たり前のことを、自分では分かっているつもりで、まるで分かっていなかったことに気付き、恥ずかしくなりました。

 以前のエントリーでも書きましたが、自衛隊のイラク派遣をめぐって名古屋高裁が先週、航空自衛隊が多国籍軍の武装兵員を戦闘地域であるバグダッドに空輸していると認定し、違憲、違法とする判断を示しました。政府は航空自衛隊の派遣部隊が何を運んでいるか、詳らかにはしていません。新聞のジャーナリズムにも、実相に迫ろうとする努力と報道がないわけではありませんが、政府が全面的な情報開示を迫られるような状況にはなっていません。自衛隊のイラク派遣を国際協力として是とする考え方に立てば、国益のためには開示できる情報にも限度があるということになるのだと思います。そういう考え方があること自体は理解しますが、軍事組織を派遣することが本当に国際協力なのか、国益にかなうのか、その場合の国益とはどんな国益なのか、などなどいくつもの論点を広く議論するためには、やはり「自衛隊はイラクで何をしているのか」が明らかにされなければ議論は深まらないと、わたしは思います。
 名古屋高裁の裁判官たちが憲法判断に踏み込んだことには「傍論」「蛇足判決」「問題判決」との指摘も出ていますが、政府を一方の当事者とする法廷の場で、そこで示された関係諸証拠を吟味し憲法に照らした判断を示した裁判官たちの姿勢に、わたしは職業上の責任を果たそうとした誠意を感じています。社会の人々の「表現の自由」「知る権利」に奉仕するはずの新聞をはじめとしたマスメディアも、同じように職責を果たさなければなりません。自衛隊のイラク派遣について言えば、やはり「自衛隊はイラクで何をしているのか、何をしたのか」を明らかにし社会に伝えることが、マスメディアの責務だと考えています。

 自衛隊や、さらには在日米軍をめぐっては今、さまざまなことが同時平行で進行しています。そこで「表現の自由」や「知る権利」に何が起こっているのか。60年余前のような「大本営発表」報道に陥ることはないのか。授業ではまず、東京大空襲の当時の記事を紹介することから始め、今日の状況を学生たちと一緒にわたし自身も、ひとつひとつ検証していきたいと考えています。
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by news-worker2 | 2008-04-25 00:55 | 表現の自由