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読書:「ルポ 貧困大国アメリカ」(堤未香 岩波新書)

読書:「ルポ 貧困大国アメリカ」(堤未香 岩波新書)_d0140015_0193660.jpg 以前のエントリーで報告したシンポ「憲法25条・生存権とメディア」でのやり取りを聞いていて、堤未香さんの「ルポ 貧困大国アメリカ」を思い出しました。
 全5章にわたって、米国社会の貧困の問題を詳細にリポートし、それが米国一国の問題にとどまらないことが浮き彫りにされていきます。中でも、貧困の拡大がイラクで「戦争の民営化」を支えている、との指摘には大きな衝撃を受けました。ここでわたしの拙い表現で本書の内容を紹介することはやめて、プロローグの最後の部分を引用、紹介します。

 同じアメリカ国内で、貧しいために大学に行きたくても行けない、または卒業したものの学費ローンの返済に圧迫される若者たちや、健康保険がないために医者にかかれない人々、失業し生活苦から消費者金融に手を出した多重債務者、強化され続ける移民法を恐れる不法移民たち…こうした人たちが今、前述したフェルナンデス夫妻と同じように束の間の「夢を見せられ」、暴走した市場原理に引きずり込まれているのだ。(中略)
 そこに浮かび上がってくるのは、国境、人権、宗教、性別、年齢などあらゆるカテゴリーを超えて世界を二極化している格差構造と、それをむしろ糧として回り続けるマーケットの存在、私たちが今まで持っていた、国家単位の世界観を根底からひっくり返さなければ、いつのまにか一方的に呑み込まれていきかねない程の恐ろしい暴走型市場原理システムだ。
 そこでは「弱者」が食いものにされ、人間らしく生きるための生存権を奪われた挙げ句、使い捨てにされていく。(中略)「民営化された戦争」に商品として引きずり込まれていくという流れは、この本に出てくるさまざまな例を通して映し出されている。


 2003年3月にイラク戦争が始まって以後、イラク民衆の戦争被害のほかにも、わたし自身の関心はイラクで死んでいく若い米兵たちにもありました。彼らはこれまでどこでどんな時間、人生を送り、何を思い軍に志願し、どういう経緯でイラクに送られたのか。それらの一つ一つがジャーナリズムの課題でもあるだろうとも考えていましたが、堤さんのルポは、これらのわたしの「知りたい」に十分に応えてくれました。

 貧困が社会不安を増大させ、ひいては戦争を招く要因であること、だから平和を永続させるためには貧困の解消が必要であり、そのために労働者の地位の向上と権利の保護が必要なこと。これらは人類が戦争を繰り返す中で得てきた歴史の教訓だと、わたしは労働運動に身を置く中で考えるようになりました。言い方を変えれば、労働運動とは本来的、根源的に平和を永続させるための運動でもあるはずだと考えています。
 数ある国連機関の中で、労働者の地位向上と権利の保護を大きな目的とする国際労働機関(ILO)が生まれたのは、第一次世界大戦が終結した1919年でした。そのILOの憲章前文には次のように明記されています。

 世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができるから、
 そして、世界の平和及び協調が危くされるほど大きな社会不安を起こすような不正、困苦及び窮乏を多数の人民にもたらす労働条件が存在し、且つ、これらの労働条件を、たとえば、1日及び1週の最長労働時間の設定を含む労働時間の規制、労働力供給の調整、失業の防止、妥当な生活賃金の支給、雇用から生ずる疾病・疾患・負傷に対する労働者の保護、児童・年少者・婦人の保護、老年及び廃疾に対する給付、自国以外の国において使用される場合における労働者の利益の保護、同一価値の労働に対する同一報酬の原則の承認、結社の自由の原則の承認、職業的及び技術的教育の組織並びに他の措置によって改善することが急務であるから、
 また、いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となるから、
 締約国は、正義及び人道の感情と世界の恒久平和を確保する希望とに促されて、且つ、この前文に掲げた目的を達成するために、次の国際労働機関憲章に同意する。


 今の日本社会の貧困が先々、わたしたちに何をもたらすのか。貧困の解消のために何が必要なのか。いずれの課題を議論するにも、まずは「今起きていること」が知られなければなりませんし、今までの例えば労働運動が貧困を生まないために、貧困の解消のために何をしてきたのかも検証が必要だと思います。堤さんのこのリポートは、ジャーナリズムと労働運動の双方にかかわってきたわたし自身にとって、大きな道しるべだと感じています。

参考 ILO駐日事務所ホームページ
 *ILO憲章の日本語訳文があります
by news-worker2 | 2008-04-27 02:53 | 読書