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意味不明の文章が並ぶ教育再生懇談会報告書~ネットの表現規制論議(その3)

 政府の教育再生懇談会が26日、第一次報告を福田首相に提出しました。共同通信の記事を一部引用します。

 政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾長)は26日夕、官邸で会合を開き、小中学生の携帯電話使用を制限し有害情報から子どもを守ることなどを柱とする第1次報告をまとめ、福田康夫首相に提出した。(中略)報告は、出会い系サイトを舞台にした犯罪の続発を踏まえ「必要のない限り小中学生が携帯電話を持たないよう保護者、学校関係者が協力する」ことを要請。小中学生が携帯電話を持つ場合には、通話や位置確認できる衛星利用測位システム(GPS)機能に限定し、メールを使わせない対策を推進するとした。

 首相官邸のサイトに教育再生懇談会のページがあり、26日の報告の資料もPDFファイルでダウンロードできます。
 原資料を見て、あらためて驚きました。小中学生の携帯電話に関するくだりは、いちばん最初に出てくるのですが、こんな文章が並んでいます。

 小中学生に対して、携帯電話を利用するに当たっての使用目的、使用機能、使用方法、使用場所等に関する利用方法の教育を、保護者、家庭、学校、地域、PTA、教育委員会、地方公共団体、携帯電話事業者及び関係業界、経済界、行政等の関係者を含め、社会総がかりで協力して推進する。これにより、必要のない限り小中学生が携帯電話を持つことがないよう、保護者、学校はじめ関係者が協力する。

 「小中学生に対して~利用方法の教育を~推進する」と言いながら、「これにより」として、掲げる目的は「必要のない限り小中学生が携帯電話を持つことがないよう、保護者、学校はじめ関係者が協力する」。「利用方法の教育を推進し、持たせないようにする」とは、文章を仕事にしている者から見れば、意味不明の日本語です。
 こんな文章も並んでいます。

 保護者、家庭、学校、地域、PTA、教育委員会、地方公共団体、携帯電話事業者及び関係業界、経済界、行政等が協力して、子供の携帯電話利用により生ずる犯罪やいじめの実態等の、教育委員会単位、学校単位等での具体的な広報を推進する。また、携帯電話の普及に伴い、駅等の公衆電話が減少しているが、社会的機能の重要性に鑑み、電話会社は一定数を確保するよう努める。

 ただひたすら「携帯電話は怖い、恐ろしい」と広めよ、というふうに読めます。これでは子どもはおろか、保護者や大人のネットリテラシーすらあやしくなるのではないでしょうか。
 「保護者、家庭、学校、地域、PTA、教育委員会、地方公共団体、携帯電話事業者及び関係業界、経済界、行政等」というのも、「国家統制」そのものに思えてしまいます。
 懇談会の10人のメンバーの間で、どのような議論が交わされたのかつまびらかではありませんが、「小中学生に携帯電話を持たせるな」は、懇談会に出席した福田首相の強い意向ということも報道されています。意味不明の日本語が並んだ報告書は、そのこと自体、懇談会メンバーの中には異論があったことを反映しているのかもしれません。詳細な議事録の公表を待ちたいと思います。
 ちなみに、報道で紹介されている懇談会の報告は、PDF原資料の中の「ポイント」をもとにしたものが多いようです。日本語としての意味不明さは、全文を読まなければ分かりません。こんなことでも(「メディア」に対する、ですが)リテラシーを考えるきっかけになるのではないでしょうか。

 以前のエントリ(「ネットの法規制論議と表現の自由」「マスメディア自身にも『自主的取り組み』は課題」)でも書きましたが、わたしは「青少年の健全育成」「子どもの保護」や「有害情報の排除」を大義名分にしたネット規制の動きには、大きく2つの疑問を感じています。
 一つはマスメディアで働く一員としての危惧ですが、「有害情報」の線引きが事実上、国家権力の裁量次第になりかねないことです。恣意的な運用を許すようなことになれば、「表現の自由」「知る権利」の圧迫にほかなりません。通信と放送の一元規制が現実味を帯びている現在、ことはネットだけの問題ではなく、既存のマスメディアも影響を免れえないととらえています。
 二つ目は社会の一員、生活者の一人として感じることですが、子どものネットリテラシーをどう高めるかの議論より先に、「ネットに触れさせるな」となってしまっては、ますます子どもたちにリテラシーを身につけさせることが難しくなることです。段階を踏んでリテラシーを学んでいくことが大切であり、そのためには大人もネットリテラシーを身につけることが必要だと思います。

 時々のぞいているサイト「bogusne.ws」にこんな記事がありました。
 「小中学生にはことば教えない」有害情報対策で教育再生懇提言
 笑いごとでは済まない社会になりつつあると思います。

*追記(2008年5月28日午前1時35分)
 元徳島新聞記者の藤代裕之さんがブログ「ガ島通信」のエントリでわたしのエントリを紹介してくれました。その中でも触れられていますが、ネット規制に反対している高等学校PTA連合会の高橋正夫会長に藤代さんがインタビューした記事は、とても参考になります。一読をお勧めします。
by news-worker2 | 2008-05-28 01:13 | 表現の自由