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趣の異なる新聞不祥事~英文毎日の不適切コラム問題

 毎日新聞社が27日、英文サイト「毎日デイリーニューズ」のコラム「WaiWai」に不適切な記事を掲載していたとして、担当記者らの処分を決めました。毎日.jpの告知記事を引用します。

 毎日新聞社:「WaiWai」問題で処分
 毎日新聞社は27日、英文サイト「毎日デイリーニューズ」上のコラム「WaiWai」に不適切な記事が掲載された問題で、コラムを担当していた英文毎日編集部記者を懲戒休職3カ月にした。また、監督責任を問い高橋弘司英文毎日編集部長を役職停止2カ月、当時のデジタルメディア局次長の磯野彰彦デジタルメディア局長を役職停止1カ月の懲戒処分とした。このほか、当時のデジタルメディア局長の長谷川篤取締役デジタルメディア担当が役員報酬の20%(1カ月)、当時の常務デジタルメディア担当の朝比奈豊社長が役員報酬10%(1カ月)を返上する処分とした。
 本社は、担当記者が国内の雑誌に掲載された風俗記事を英文サイトに引用する際、不適切な描写のまま英文に翻訳した結果、多くの読者に不快感を与え、インターネット上で批判を受けるなど信頼を損なったと判断した。上司については、記事のチェックを怠るなどの監督責任を問うた。WaiWaiは今月21日に閉鎖している。

 問題の経緯は、毎日新聞の告知記事では以下のようになっています。引用が多くなることは承知していますが、報道記事ではなく毎日新聞の見解ですし、正確性を期すためにそのまま引用します。

 「WaiWai」コラムの前身は1989年10月、紙の新聞の「毎日デイリーニューズ」上で連載を開始した。その後、紙の新聞の休刊に伴い、2001年4月19日からはウェブサイト上の「WaiWai」として再スタートした。
 英文毎日編集部に籍を置く日本在住の外国人記者と外部のライターが執筆し、日本国内で発行されている雑誌の記事の一部を引用しながら、社会や風俗の一端を英語で紹介した。どのような記事を選択するかは主に外国人記者が行った。
 5月下旬、過去の掲載記事について「内容が低俗すぎる」「日本人が海外で誤解される」などの指摘・批判が寄せられ、調査した結果、不適切な記事が判明し、削除した。それ以外の記事についてもアクセスできない措置を取り、チェックを続けていた。
 6月中旬、削除した記事がネット上で紹介され、改めて批判・抗議が寄せられた。
 さらに調べた結果、元記事にはない内容を記者が加えていたケースも1件確認された。品性を欠く情報発信となったことを反省し、全面的に閉鎖することにした。
 その後、今回の問題についての経緯とおわびを日本語と英語でウェブサイトに掲載。25日付朝刊本紙にもおわびを載せた。
 社内調査に対し、記者は「風俗の一端と考え、雑誌記事を引用し紹介したが、引用する記事の選択が不適切だった。申し訳なかった」と話している。同コラムの執筆を記者に委ね、編集部内での原稿のチェックが不十分で、編集部に対する上司の監督にも不備があった。


 さらに毎日新聞社は、今回の措置が妥当だったか、社外の有識者でつくる第三者委員会に見解を求めることも明らかにしています。いずれ第三者委員会の見解も紙面で明らかにされることと思います。
 今回の問題では、ネット上にまとめサイト「毎日新聞の英語版サイトがひどすぎる まとめ@wiki」などもあります。わたし自身は、6月20日にネット上のニュースサイト「JCASTニュース」が取り上げたことで知りました。実際にどんな記事がアップされていたのかを正確に知っているわけではないので、コラムの記事掲載の是非そのものに対する考えの表明は、ここでは差し控えたいと思います。毎日新聞社がコラムの閉鎖、担当者や上司の処分に踏み切るには、JCASTニュースの記事掲載が大きな契機になったのは間違いがないようですが、その間の経過、とりわけ毎日新聞社内の状況をうかがい知るにはあまりに情報が少ないので、毎日新聞社の判断の是非自体についても意見の表明は控えたいと思います。
 その上で、ということになりますが、わたしは今回の1件は、ネットと既存マスメディア(この場合は大手新聞社ということになると思いますが)の関係を考える上で後世にも記録される出来事の1つではないかと考えています。
 これまでも新聞社が取材・編集上の不祥事に対して、懲戒の内部処分を行うことはありましたが、大半は故意に記事や取材情報がねつ造されていたか、他者の記事を盗用していたケースでした。また、こうしたケースでは名誉を傷つけられたり、著作権を侵害される直接の被害者の個人や団体が存在することが多く、不祥事の発覚もそうした当事者からの通報が端緒になっていました。報道内容に明白な誤りがあり、関係当事者に謝罪や賠償が行われるケースでも、取材・報道の過程に故意や重大な過失がない限りは、懲戒処分にまでは至らないケースが多かったと思います。
 あらためて英文毎日サイトの今回の1件をみると、毎日新聞社は「担当記者が国内の雑誌に掲載された風俗記事を英文サイトに引用する際、不適切な描写のまま英文に翻訳した結果、多くの読者に不快感を与え、インターネット上で批判を受けるなど信頼を損なったと判断した」と説明しています。故意のねつ造や盗用ではなく、また事実関係の誤りがあったわけでもなく(経緯の報告では「元記事にはない内容を記者が加えていたケースも1件確認された」ともありますので、この点は毎日新聞社の最終的な調査結果を待ちたいと思いますが)、特定の個人、団体が具体的な被害を受けたわけでもないと、少なくとも毎日新聞社は現時点でそう判断していると読み取れます。強いて言えば、当該コラムの被害者は特定個人や団体ではなく不特定多数のネットユーザーであり、被害も個々の名誉棄損や著作権侵害ではなく不特定多数のネットユーザーの不快感ということになるのでしょうか。わたしは、今までの新聞社の不祥事と比べて、当の新聞社が不祥事と認定するに至った経緯も理由も、今までの不祥事とは相当に趣の異なるケースだと受け止めています。
 この1件をネットと既存マスメディアの関係でどう意味づければいいのか、わたし自身はまだ考えが整理できていませんが、キーワードの1つは「信頼」になるのではないかと思います。情報の信頼性を身上としてきた新聞社がネット展開していく際に何よりも重んじなければならず、かつまた事業としてもネット展開に展望を持てるかどうかを左右するのはやはり「信頼」なのだと思います。
 そもそも新聞本紙だったら週刊誌の風俗記事からの引用記事が掲載されることがあるだろうか、ということも考えています。新聞社の日本語サイトのコンテンツの中心は、本紙向けに取材し書かれた記事です。今回の1件が、紙としては発行を取りやめた英文サイトのコラムだったから起こってしまったことなのかどうか。いずれにせよ、毎日新聞社の第三者委員会の見解が明らかにされるのを待って、わたしも考えをまとめてみたいと思います。
by news-worker2 | 2008-06-30 01:11 | 新聞・マスメディア