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読書:「自衛隊員が死んでいく 〝自殺事故〟多発地帯からの報告」(三宅勝久 花伝社)

読書:「自衛隊員が死んでいく 〝自殺事故〟多発地帯からの報告」(三宅勝久 花伝社)_d0140015_042289.jpg 9条改憲、日米同盟、海外派遣、防衛庁から省への昇格など、戦後日本と平和をめぐって常に論議になる自衛隊ですが、海自イージス艦と漁船の衝突・沈没事故(ことし2月)のほか、陸自隊員による鹿児島のタクシー運転手刺殺事件(ことし4月)のように、最近では大きな不祥事も目立つようになっています。本書は、その自衛隊の中で何が起きているのかに迫った渾身のリポートです。
 本書はプロローグで、自衛隊の年間自殺者が最近では80―100人に達していることを紹介し、次いで、隊員の自殺をめぐって、護衛艦や部隊内で日常的に上官らのいじめがあったとして遺族が提訴しているケースや、部隊内での上官殺害事件、守るべき市民を隊員が襲った連続強姦事件、部隊内でのセクハラに続いて「悪いのはお前の方だ」と言わんばかりに上司から退職を強要された女性自衛官の裁判闘争などを取り上げています。裁判になったいじめ自殺やセクハラ被害は、マスメディアでも報道されていますが、本書はさらに遺族や支援者らに突っ込んで取材しています。
 わたし自身は、自ら命を絶った隊員たちが、他人の役に立ちたいと自衛隊を志願し、仕事に誇りを持っていながら、いじめやパワハラで追い詰められていったことが、遺族らへの取材で明らかにされていることが強く印象に残りました。自衛隊のイラク派遣に関連して名古屋高裁が出した違憲判断をめぐる以前のエントリ(「名古屋高裁判決についての航空幕僚長発言に感じる危うさ」)でも触れましたが、「組織と個人」という観点から見たとき、自衛隊員であることに誇りを持ちながら、その自衛隊という組織は個々の隊員を守ることができないのが実態ではないか、との読後感を持っています。軍事組織とはそういうものなのだとしたら、将来、仮に9条改憲で自衛隊が「軍隊」になったときどんな組織になっていくのか、いったい軍事組織は何のために存在するのか、危うさを感じます。
 著者の三宅勝久さんは元地方紙記者です。著書をめぐって名誉棄損を理由に、消費者金融「武富士」から起こされた巨額の損害賠償請求訴訟をたたかいぬいたフリーランスのジャーナリストです(新聞労連の委員長当時に、言論弾圧をテーマにした集会にパネラーとして参加していた三宅さんの話を聞く機会があり、そのときから尊敬の念を抱いています)。
 自衛隊をめぐっては、窃盗や飲酒運転などマスメディアが大きくは取り上げない不祥事も頻発しています。報道発表が部隊所在地の地元記者クラブに対してだけ行われ、結果としてその地域のローカルニュースとしてしか取り上げられないことも、三宅さんは自身のブログで明らかにしています。こうした自衛隊の情報コントロールに、多くの取材拠点を構え組織取材を身上としているはずのマスメディアは、いとも簡単に乗せられてしまっているのではないか…。自衛隊の在り方と同時に、マスメディアの権力監視の在り方もまた問われているのだと自戒しています。
by news-worker2 | 2008-07-05 23:45 | 読書