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暴力の矛先を身内に向け、自衛隊は何を守るのか~内部告発の受け皿へマスメディアは奮起のとき

 また自衛隊の不祥事が明らかになりました。広島県江田島市の海自第一術科学校で9月、特殊部隊「特別警備隊」隊員養成課程の25歳の男性3曹が15人相手の格闘訓練をさせられ、頭を強打し死亡していたことを12日、共同通信が報じ、新聞休刊日を挟んで14日、他紙も一斉に続きました。3曹は特別警備隊の養成過程を辞める直前。教官らは遺族に「はなむけのつもりだった」と説明したとされます。共同通信の記事を引用します。
 海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」の隊員を養成する第一術科学校(広島県江田島市)の特別警備課程で9月、同課程を中途でやめ、潜水艦部隊への異動を控えた男性3等海曹(25)=愛媛県出身、死亡後2曹に昇進=が、1人で隊員15人相手の格闘訓練をさせられ、頭を強打して約2週間後に死亡していたことが12日、分かった。
 教官らは3曹の遺族に「(異動の)はなむけのつもりだった」と説明しており、同課程をやめる隊員に対し、訓練名目での集団暴行が常態化していた疑いがある。海自警務隊は傷害致死容疑などで教官や隊員らから詳しく事情を聴いている。
 3曹の遺族は「訓練中の事故ではなく、脱落者の烙印を押し、制裁、見せしめの意味を込めた集団での体罰だ」と強く反発している。

 この事件に対し海上自衛隊トップの海幕長は14日の会見で「調査してから判断したい」と述べました。同じく共同通信の記事を引用します。
 海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」(特警隊)の養成課程の男性3等海曹(25)死亡事件で、赤星慶治海幕長は14日の定例会見で、3曹が異動する2日前に格闘訓練が行われたことについて「こういうことをやるのがいいのか、内容が適切なのか、調査してから判断したい」と述べるにとどまった。
 浜田靖一防衛相は同日午前の会見で、1人で15人を相手にする格闘を「特殊、特別な気がしないでもない」として訓練の範囲を逸脱したとの認識を示しており、立場の違いが際立った。

 隊員一人一人の「個」があまりにも軽く扱われる自衛隊のありようについては、このブログでも何回か書いてきましたが、今回の一件は悪質さが際立っています。いったいどういうつもりで「はなむけ」などという言葉を口にできるのか。そして当事者意識を欠いたとしか言いようのない赤星海幕長の発言。常に憲法上の議論にさらされながらも、国家の独立を守るためにのみ保有を許されているはずの〝暴力〟の矛先を身内に向けたことに、この組織はあまりに鈍感だと言わざるを得ません。いったい何を守ろうというのでしょうか。
 以前のエントリで紹介した「自衛隊員が死んでいく」の著者でジャーナリストの三宅勝久さんは、今回の事件についてご自身のブログで次のように指摘していますが、同感です。
 隊内で起きていることは、やがて隊外でも起きる。昨年度暴力で懲戒処分を受けた80人以上のうち、30人近くは一般市民を巻き添えにした事件を起こしている。
 「隊員なんてモノ以下ですよ」とは、現役幹部の言葉である。隊員がモノなら、一般国民は何なのだろうか。武装集団が暴走しはじめてからでは遅い。「軍事オンブズマン」のような第三者の監視制度をつくるなどしてブレーキをかけなければ、危なくて仕方ない。

 海自は事件当日も、3曹が死亡した翌日も、公式発表では15人が相手だったことは伏せていました。真相の隠ぺいを図ったと言えば言い過ぎだとしたら、事件を矮小化したいとの意図が透けて見える、と言ってもいいと思います。実際、発表を受けた新聞各紙の当初の報道は地元向けの小さな記事だけで、全国ニュースにはなりませんでした。
 自衛隊は他官庁と比べて自殺者が出る割合が高く、しかも動機が不明とされているケースが多いことがかねてから指摘されています。先日は、護衛艦乗組員の自殺をめぐって、上官に指導の域を超えた侮蔑的な言動があり、これによるストレスが原因のうつ病で自殺したと認定した福岡高裁判決が確定しました(過去エントリ「ひとこと:護衛艦『さわぎり』訴訟の遺族勝訴判決が確定」)。
 今回の一件を見るにつけても、自衛隊内部には公になっていない幾多のいじめ、リンチなどがあるのではないかと思います。新聞をはじめとしたマスメディアにとっては、そうした個々の腐敗、不正をひとつひとつ暴いていくことができるかが問われているようにも感じます。そのためには、内部告発の受け皿足りうることが必要であり、ここは奮起の時だと考えています。

 15日には、こんな動きもありました(共同通信記事より引用)。「内部告発の受け皿」と密接な関係がある出来事です。
 南シナ海での中国潜水艦の事故をめぐり「防衛秘密」を読売新聞記者に漏らしたとして、自衛隊法違反容疑で書類送検された防衛省の元情報本部課長北住英樹元1等空佐(50)について、東京地検は15日、不起訴処分(起訴猶予)にした。
 元1佐が情報漏えいを認め反省しているほか、2日付で懲戒免職となったことや、防衛省の再発防止策などを考慮した。

 わたしの考えは過去エントリ「軍事が無原則に『表現の自由』『知る権利』に優先する危険~読売新聞情報源の懲戒免職の意味」に書いた通りです。ご一読をお願いいたします。

*追記(2008年10月17日午前2時10分)
 自衛隊の「暴力」の合法、違法については、弁護士の杉浦ひとみさんのブログエントリ「海上自衛隊の『はなむけ』と角界の『かわいがり』比較」の論考が参考になりました。一部を引用します。
 この海上自衛隊の中での暴行の問題は、さらに角界の件とは別の大きな問題があると思います。それは、自衛隊がもともと物理的な力を携えることが法で許容されている集団だからです。そして、その力は隊内部で相互に使われるのではなく、第三者に対して行使されることが想定されているからです。
 力を行使することが法的に認められる立場にある者が、力の使い方についての違法・適法の判断力が養われていない場合、非常に危険なことになります。

 自衛隊に「暴力」が許容されているのは、それが日本の独立を損ねる外敵に向けられることが想定されているからであり、そうでないならば違法である、との指摘だと理解しています。そこがスポーツや武道としての格闘との本質的な違いだと思います。
 
by news-worker2 | 2008-10-16 02:50