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「対米配慮」を追認した司法~イージス艦情報流出事件の横浜地裁判決

 また自衛隊の話題です。
 防衛秘密にあたる海上自衛隊イージス艦のイージスシステム情報を流出させたとして「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(以下、秘密保護法と表記します)」違反の罪に問われていた海上自衛隊艦艇開発隊所属(当時)の3等海佐に対し、横浜地裁が28日、無罪主張を退け懲役2年6月、執行猶予4年の判決を言い渡しました。
 この事件では、イージスシステム情報は海自内部に拡散し、アクセス権限がない多数の隊員の手に渡っていましたが、外部への流出は確認されませんでした。そもそも3佐はイージス艦以外の護衛艦システムを担当しており、秘密保護法が規定する処罰の対象者に当たるかどうかがまず大きな争点でした。3佐は隊員教育のために「善かれ」と考え、上司にも相談した上で、海自第一術科学校の教官(当時)に情報ファイルを記録したCDを送っていました。スパイ行為でもなく、秘密保護法が処罰の対象にしている「他人への漏えい」に当たるかどうかが第2の争点でした。判決はいずれも、検察側の主張をほぼ全面的に採用しました。
 判決は一方で、海自内部の情報管理のずさんさも指摘して執行猶予を付けた要因の一つに挙げています。判決それ自体だけを見れば「3佐に気の毒な面はあっても落ち度は落ち度で有罪はやむなし」「海上自衛隊の規律のゆるみも同時に断罪されたに等しい」「全体として妥当な判断」との印象を受けます。自衛隊の規律の粛正それ自体に異論を差し挟む余地は少ないだろうとは思うのですが、しかしそれにしても、わたしは今回の判決にはもう少し大きな問題が内包されているのではないかと考えています。
 判決は直接触れていないようですが、3佐の立件の背景には、日本に提供した軍事情報が漏えいすることに米国が強い不快感を示していたこと、捜査当局内には立件への異論もありながら最終的に「対米配慮」が重視され、3佐が逮捕・起訴に至ったことが、これまでの報道でも繰り返し指摘されていました。
 「もう少し大きな問題」というのは、日米の軍事一体化の大きな流れを背景に日本社会で、とりわけ自衛隊に絡む事柄では、米国の不興を買いかねない行為への厳罰化が進むのではないか、ということです。少し違った角度から言えば、捜査当局内にさえ異論があった立件に対し、裁判所が検察側主張をほぼ丸呑みにして有罪を認定したことは、結果としてであれ、司法が「対米配慮」を追認したと言えるのではないか、ということです。
 自衛隊内の規律維持に異論はないとして、しかし、そのことと規律違反の行為に刑事責任を問うこととの間には本来、一線が敷かれるべきです。また、仮に3佐の行為が外形的には「違法」となるにしても、刑罰を科すまでの悪質性があるのか、という論点も成り立つのではないかと思います。米国の不興を買い、日米軍事同盟の維持、進化に好ましくない行為には厳罰でもって臨む、というふうな風潮が日本社会に広がっていくことになりかねない、との危惧をわたしは抱いています。
 今回の事件は、結果的に自衛隊という組織の枠を出ることはありませんでした。いわば自衛隊内で完結した事件であったために、判決が内包している危険性が見えにくいとも言えるのではないかと思います。しかし、思い起こすのは、中国潜水艦のトラブルをめぐって、読売新聞の情報源の自衛官が自衛隊警務隊によって摘発され、職を奪われた事件です(以前のエントリー参照)。読売新聞情報源の一件が刑事手続きでは起訴猶予になったとはいえ、「米国の意向」が最優先という意味ではイージス艦情報の一件は同根だと思います。
 今回の秘密保護法は制定から半世紀以上の間、摘発例がありませんでした。半世紀以上前の立法趣旨がどこにあったのか、その辺の検討がないままに、条文を機械的に、検察主張のままに解釈し有罪を言い渡した判決は本当に妥当なのか。秘密保護法を適用し有罪にするハードルが実はさほど高くないことを、今回の判決は実績として残したのではないのか。そうした疑問を感じずにはいられません。日米同盟のじゃまになること、じゃまになる人間には事情のいかんを省みず刑事罰で臨み排除していく、ということがまかり通るなら、憲法が保障しているはずの「表現の自由」や「知る権利」などの市民的諸権利も、やがては「軍事情報の秘匿」よりも下位へと追いやられるでしょう。そして、秘匿すべき情報か否かの判断は、米国の意向、さじ加減ひとつということになりかねません。決して望ましいことではないと思います。秘匿が必要な情報か否かを主権者たる国民が検証できないままに、市民的諸権利に軍事的事情が優先する社会とは、戦争社会です。

 横浜地裁判決を新聞各紙も28日付夕刊と29日付朝刊で取り上げました。自衛隊関連のニュースの通例で、解説記事や社説ではそれぞれの新聞の自衛隊に対するスタンスの違いが反映されています。ここでは、共同通信が配信し地方紙に掲載された軍事ジャーナリスト前田哲男さんのコメントを一部紹介します。
 ミサイル防衛(MD)や在日米軍再編などで自衛隊と米軍が高度な秘密情報を共有するなど関係強化が進む中、秘密の管理や保護を厳格化する防衛省側の考えの流れに沿った判決だ。秘密保護法が本来想定した「スパイ事件」ではない情報流出に同法を適用した問題点は審理されずに終わった印象だ。

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by news-worker2 | 2008-10-30 02:15